あご周りのたるみはリフトアップだけで改善できる?(顔の老化を解剖学から考えるⅢ)

雑誌D&PSの2025年9月号に掲載された、私のコラム全文です。

加齢変化が現れ始めたとき、最初に気になるのは下顔面という方が少なくありません。フェイスラインがぼやけて輪郭が重くなり、口角が下がり、マリオネットラインが深くなると、表情まで沈んで見えます。しかし、下顔面は一つの施術だけで改善するのが難しい部位です。皮膚のたるみだけでなく、骨格、脂肪パッドの移動、靭帯の弱まり、筋肉の不均衡、細胞外マトリックス(ECM)の質の低下が同時に関わるためです。

下顔面の治療では、各層の老化の仕組みを理解し、層ごとに狙いを定めることが基本になります。解剖に基づいてエネルギー機器(EBD)と複数の施術を組み合わせることで、顔の構造から若々しさを整える治療を設計できます。

あご周りのたるみは、なぜ生じるのでしょうか?

下顔面では、ジョール脂肪や頬脂肪体が下へ移動し、フェイスラインが崩れてジョールの膨らみが目立ちます。口角が下がってマリオネットラインが深くなり、ほうれい線から続く暗い影が生じます。下顎の輪郭は鈍くなり、すっきりした線が失われます。口の周囲ではくぼみや小じわが増えますが、これには皮膚の萎縮、脂肪の再分布、筋肉の緊張増加が重なっています。

これらの変化は、複数の解剖構造の変化によって起こります。下顎骨やあご先、オトガイ孔周囲の骨が再構築・後退し、土台が弱くなります。脂肪層では脂肪パッドが分断されて下がり、特にジョール脂肪の移動が目立ちます。口角下制筋(DAO)、オトガイ筋、広頸筋などの緊張が強くなると、表情の変化やたるみが進みます。下顎靭帯や口唇下顎靭帯の支持力も低下します。ECMや皮膚ではコラーゲン密度、弾力、微小循環などが全体的に衰えます。このように、下顔面の老化にはさまざまな変化が重なっています。

ジョールや下顎周囲には、DAO、広頸筋、オトガイ筋、笑筋など、口元を下へ引く働きを持つ筋肉があります。加齢により安静時の緊張が低下すると口角が下がり、複数の筋肉が交差する口角結節(modiolus)が不安定になります。その緊張の低下は、マリオネットラインやジョールにも関わります。下顎靭帯、広頸筋耳介靭帯、皮膚支帯が弱まると、脂肪と皮膚が下がります。ECMでのコラーゲン再配列が十分に進まず、弾性線維の密度が低下すると、下顔面の皮膚も伸びます。診療では、ジョールの膨らみ、輪郭のぼやけ、深いマリオネットライン、口周囲の皮膚の余り、二重あごなどが見られます。

下顔面の治療は、単に引っ張ったり、ボリュームを足したりすることではありません。層ごとに変化した構造を、適切な位置へ再配置する過程です。加齢によって位置や機能が変わった各組織を、解剖に基づいて整えるには、層別のアプローチが欠かせません。

あご周りのたるみには、どのような施術や機器を使うのでしょうか?

下顎の輪郭や口角を支える構造を整えるには、骨膜層に着目して支持力を補うことが基本になります。あご先の最突出点、下顎角、下顎縁のくぼみなどを中心に、高弾性のヒアルロン酸フィラーやCaHAを骨膜のすぐ上に注入し、後退した下顎の支持を補う方法があります。

機器を併用することもできます。HIFUでSMASの深さに選択的な熱刺激を与えたり、4〜6mmのチップを用いる深部RFで骨膜層のECMを刺激したりして、支持組織の生体反応を促します。

ジョール脂肪や頬脂肪体の下方移動は、皮下脂肪層で起こる変化です。皮膚支帯や線維性隔壁が緩むと脂肪パッドが移動し、フェイスラインがぼやけます。マイクロニードルRFで皮膚支帯を収縮させ、脂肪パッドの位置を整える方法があります。脂肪量が多い場合には、1060nmのダイオードレーザー、2.45GHzのマイクロ波、MPT高密度焦点式超音波などで、局所の脂肪に働きかける方法が考えられます。

ただし、皮下脂肪は炎症や線維化が強く起こり得る組織です。熱刺激が過剰になると、しこりのリスクが高まります。温度と照射時間を適切に管理し、部位ごとに強さを調整することが必要です。マリオネットラインでは内側の構造、ジョールでは外側へ引く方向、フェイスラインでは水平方向の張力を重視します。

図1.顔の筋肉層と、ボツリヌストキシン注入の深さの目安。出典:Consideration of Muscle Depth for Botulinum Toxin Injections: A Three-Dimensional Approach, Julie Bass Kaplan, Plast Surg Nurs. 2017 Jan/Mar;37(1):32-38. doi:10.1097/PSN.0000000000000172.

口角の下がりやマリオネットラインの深さに、直接大きく関わるのは筋肉層の不均衡です。特にDAO、オトガイ筋、広頸筋などの緊張が強まると、顔全体が重く、下がって見えます。これらにはボツリヌストキシンで働きを調整する方法があります。同時に、上へ引き上げる大頬骨筋・小頬骨筋の機能を、HIFESなどの機器で高める方法もあります。上下の筋肉のバランスを整えることで、自然な表情とリフトアップを目指します。

ジョールが膨らみ、フェイスラインが崩れる背景には、支持靭帯の弱まりがあります。特に下顎靭帯や口唇下顎靭帯が緩むと、周囲の脂肪を支えにくくなります。代表的な対処法の一つが糸リフトですが、糸を通す位置は精密に調整する必要があります。たとえばマリオネットラインより内側へ入りすぎると、笑ったときにくぼみが生じる場合があります。そのため、ラインの中央付近までにとどめ、周囲の解剖構造に合わせて張力を調整します。フラクショナルバイポーラRFを併用し、靭帯周囲のECM再構築や弾力回復を図る方法もあります。

加齢の進んだ下顔面では、真皮の弾力低下、表皮の萎縮、色素沈着なども生じます。口の周囲は表情によって絶えず動くため、しわや粗い質感が目立ちます。こうした表層の問題には、非架橋ヒアルロン酸、PN、PDRNなどのスキンブースターを真皮に注入し、ECMの保水力や弾力に働きかける方法があります。ピコ秒レーザー、LDM、ニードルRFなどとの併用も考えられます。

図2.靭帯の形態による分類。深部から浅部へ、深筋膜・頭蓋骨膜、SMAS下層、SMAS・帽状腱膜、皮下組織、皮膚が並びます。SMAS下層から浅い組織へ連なる構造を、真の靭帯、隔膜、癒着の3種類に分けて示しています。出典:Surgical Anatomy of the Ligamentous Attachments in the Temple and Periorbital Regions, Christopher J. Moss, Bryan C. Mendelsonほか, Plastic & Reconstructive Surgery 105(4):1475-90; discussion 1491-8, 2000. DOI:10.1097/00006534-200004040-00035.

たるみ治療では、なぜ引き上げること以上に再配置が大切なのでしょうか?

下顔面の治療で目指すのは、失ったものを補うだけでなく、組織の配置を整えることです。下顔面は加齢変化がはっきり現れ、ご本人も変化を強く感じやすい部位です。ぼやけた輪郭、下がった口角、膨らんだジョール脂肪、マリオネットラインの影は、年齢を感じさせる印象につながります。これらを引き上げやボリューム補充だけで解決しようとすると、過剰な補正、不自然な仕上がり、持続期間の短さといった問題が生じやすくなります。

図3.顔とジョールの解剖。左:ジョール脂肪パッドの後縁を示す神経・血管。赤は顔面動脈、青は顔面静脈、これらと交差する黄色の構造は顔面神経下顎縁枝(MMN)。中央:男性の解剖標本に、ジョール脂肪の治療範囲を重ねて表示。A:外眼角、B:下顎角前方の切痕、C:口角、D:ジョール前溝、E:正中の口唇オトガイ溝、F:耳垂。白い斜線部は下顎下縁のMMN支配領域。右:緑の範囲は下方のジョール脂肪パッド。出典:Novel Surface Anatomic Landmarks of the Jowl to Guide Treatment with ATX-101, Sachin M. Shridharani, Plastic and Reconstructive Surgery, DOI:10.1097/GOX.0000000000002459.

下顔面の老化は、一つの原因から生じるものではありません。骨格の再構築、脂肪パッドの移動、筋緊張の変化、靭帯の緩み、ECMの質の低下が重なる、複数の層の構造変化です。単に以前の状態へ戻そうとするのではなく、崩れた箇所を解剖学的に見直し、機能を考えて再配置する「構造の再編成」が必要です。

治療で大切なのは、組織を層ごとに分けて捉える視点です。解剖の知識だけでなく、施術の設計に結び付く構造の理解が求められます。骨膜側の支えが弱いのに皮下脂肪だけを引くと、固定力が足りず、効果が安定せず長続きしません。筋肉の下向きの力が原因なのにフィラーだけで口角を上げると、笑顔の左右差や不自然さが生じる場合があります。靭帯が緩んでいるのに浅い層にだけ糸を入れても、結果は持続しにくくなります。原因のある層を見極めなければ、治療は問題を解決せず、表面の変化を覆うだけになってしまいます。

近年、下顔面治療におけるエネルギー機器の役割は大きくなっています。以前は糸で引き上げたり、フィラーでボリュームを補ったりする方法が中心でした。現在は皮下脂肪層の構造を整える、SMASを収縮させる、ECMをリモデリングする、熱で線維化を促すなど、作用の仕組みに基づく治療が可能になっています。

一方、機器だけであらゆる構造に対応できるわけではありません。PDO糸、ボツリヌストキシン、フィラー、コラーゲンブースターなども、エネルギー機器で土台を整えることで相乗効果を得やすくなります。両者は横並びの選択肢というより、層を重ねる関係にあります。機器でECMや骨膜から皮膚までの基盤を整え、その上に施術で構造を組み立てる考え方が理想的です。

図4.顔のスペースと支持靭帯についての従来の理解。多くのスペースは、靭帯によって境界を区切られるものとされてきました。許可を得て転載。出典:Anatomy of the Facial Glideplanes, Deep Plane Spaces, and Ligaments: Implications for Surgical and Nonsurgical Lifting Procedures, Lennert Minelliほか, Plast Reconstr Surg. 2023 Sep 25;154(1):95-110. doi:10.1097/PRS.0000000000011078.

図5.口を開けたときの下顎周囲の各部位の動き。咬筋前方のスペース(青)では、皮膚がさらに滑ることなく、広頸筋が咬筋の上を滑ります。下顎靭帯部(黄)では、広頸筋、下唇下制筋、口角下制筋が共通して付着する部分で、皮膚が下顎骨・筋肉の上を滑る必要があります。口周囲の癒着部(赤)では、下顎骨、下唇の筋肉、皮膚が一体として動き、互いの位置関係を保ちます。出典:The Surgical Anatomy of the Jowl and the Mandibular Ligament Reassessed, Lennert Minelliほか, Aesth Plast Surg (2023) 47:170-180. https://doi.org/10.1007/s00266-022-02996-3.

下顔面を層ごとに分けても、各層は独立しておらず、密接につながっています。たとえばSMASが緩むと脂肪パッドが下がり、皮膚支帯の支えが崩れ、真皮にしわが生じます。表面に見えるしわは結果であって、原因は2〜3層深いところから始まっている場合があります。このつながりを理解してこそ、施術の時期、強さ、順序を適切に設計できます。

多くの患者様は「リフトアップしたい」と話されます。しかし、実際に必要なのは、顔の構造を整え直すことです。下顔面は単に下がるだけでなく、組織の位置や量、張力が変わっています。皮膚を上へ引くだけでなく、脂肪の向きを整え、筋肉の張力を分散し、靭帯の弾力や骨膜側の支えを補う。それらを組み合わせて適切な配置へ導くことが、下顔面の治療だと考えています。

(次号に続く)

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D&PS 2025年9月号 チョ・チャンファン院長のコラム 1
D&PS 2025年9月号 チョ・チャンファン院長のコラム 2
D&PS 2025年9月号 チョ・チャンファン院長のコラム 3

執筆:ドンアン中心クリニック 医師

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