高周波リフトは脂肪細胞にどう働く?(EBDによる脂肪細胞への刺激)
雑誌D&PSの2025年5月号に掲載された、私のコラム全文です。
従来、EBDの治療モデルは、目的の組織に必要な温度を与え、創傷治癒の過程を引き起こすというものでした。一方、少し異なる仕組みも考えられています。適度に温度が上がると、皮膚は非特異的な反応として、内因性のヒアルロン酸をすぐにつくり始めます。この反応と局所的な浮腫は、42℃を超えた段階ですでに現れ、施術直後のしわ改善を説明できます。初期のRF機器が掲げていた「即時的なコラーゲン収縮」の仕組みで想定されたより、低い温度でも変化を得られるということです。
RFによる長期的な効果も、別の仕組みから考える必要があります。線維芽細胞だけでなく、脂肪細胞の増加や肥大、ほかの細胞への変化によって、体積が変わるという説明です。脂肪細胞の分化中にヒアルロン酸が発現する、という研究結果も注目されます。
マウスの研究では、ヒアルロン酸を枯渇させると、前駆脂肪細胞から脂肪細胞への分化が減るという結果が得られました。これは、脂肪細胞の分化を促すとヒアルロン酸が増えることを示しています。また、長期間紫外線を受けると、ヒアルロン酸合成酵素が下方制御され、真皮のヒアルロン酸が減少します。逆にいえば、皮膚の脂肪細胞を活性化することで、ヒアルロン酸量を調整できる可能性があります。
EBDで皮膚の脂肪細胞を刺激すると、C/EBPα(CCAAT/Enhancer-Binding Protein alpha)やPPARγ(Peroxisome Proliferator-activated receptor gamma)が発現し、脂肪生成が促されます。さらに、炎症の調整や、コラーゲンの合成・分化・増殖も起こり得ます。つまり、EBDの作用はコラーゲン再生にとどまりません。見た目のボリュームを取り戻しながら、コラーゲンやヒアルロン酸を増やし、エイジングケアと引き締めの両方を目指せます。
図1.脂肪生成に関わるC/EBPαとPPARγ。脂肪組織の細胞分化、アポトーシス、組織形成における、ケッバーリング・ダニガン症候群の原因遺伝子の分子経路。The Study of Genetic Mutations in Genes AGPAT2, LMNA, PPARG, PLIN1, AKT2, CIDEC in Köbberling-Dunnigan Syndrome, Shahin Asadi ほか, March 2019 Journal of Diabetes & Metabolic Disorders 4(1):1-5.
高周波電流は、皮下脂肪のどこに集中する?
皮下脂肪組織の中で、電流は決して均一には流れません。中性脂肪の導電率が、細胞外マトリックス内の細胞周囲・細胞間の線維化組織よりも、はるかに低いためです。RF電流は主に、コラーゲン構造へ集中します。そのため、皮下組織での電流分布は、線維化の程度によって変わります。
電流が集中すると、脂肪組織の線維化した部分では電流密度が大きく上がり、組織全体の平均よりも高温になります。その結果、細胞周囲や細胞間の構造に加え、脂肪細胞の表面が選択的に加熱されます。これをチャネリング効果と呼びます。
顔の脂肪は、部位によって構造が異なります。たとえば口唇部では、密なコラーゲン基質の中に小さな脂肪細胞群が埋まる、線維性脂肪の構造を取ります。頬骨部では、薄いコラーゲン構造で覆われた成熟脂肪細胞が、より大きな集まりを形成し、structured fatと呼ばれます。頬脂肪体はこれらと異なり、コラーゲンのネットワークが少なく、内臓脂肪に似た構造で、depot fatに分類されます。さらに線維化の程度は年齢や性別でも変わるため、同じRF治療でも反応には個人差が生じます。
図2.脂肪細胞と、その周囲のECM。左:脂肪組織の構成要素。右:細胞外のコラーゲン基質の中に集まる脂肪細胞。出典:Obesity, Metabolic Dysfunction, and Inflammation in Polycystic Ovary Syndrome, Mira Aubuchon ほか. DOI:10.1007/978-1-4614-8394-6_8, Polycystic Ovary Syndrome(pp.117-144).
脂肪組織では、細胞同士の間の壁が閉じているため、微視的な力学では、それぞれの脂肪組織を「独立気泡フォーム」と捉えられます。体積の大部分を占めるのは中性脂肪ですが、力学的な性質を主に決めるのは細胞周囲の線維化組織で、中性脂肪の役割は補助的です。
皮膚は、理想的な導体でも、理想的な誘電体でもありません。物理学では、このような物質を損失のある誘電体と呼びます。電気エネルギーをジュール熱として消費する一方、コンデンサーのように蓄えることもできます。電流の分布や温度上昇は、伝導性と誘電性のどちらが強いかによって変わります。誘電特性は周波数で変化し、これを分散といいます。伝導性が優位なら、RF電流は主に加熱に使われます。誘電性が優位なら変位電流が生じ、主に分極、つまり電荷の再分布を起こし、強い加熱を必要としません。一般に、低周波では伝導性、高周波では誘電性が強くなり、非常に高い周波数では、あらゆる材料が誘電体のように振る舞います。皮下脂肪組織の導電率は、100㎑〜10㎒の広い範囲で、ほぼσ≅0.02S/mと一定です。一方、誘電率は周波数に大きく依存し、f=100㎑で約ε≅40、f=1㎒で約ε≅15、f=10㎒で約ε≅11です。したがって、非発熱電流に対する発熱電流の比は、f=100㎑で約90、f=1㎒で約24、f=10㎒で約3となります。皮膚全体(角層・表皮・真皮)の導電率は周波数とともに大きく上昇し、f=100㎒で約σ≅0.07S/m、f=1㎒で約σ≅0.3S/m、f=10㎒で約σ≅0.4S/mです。皮膚の発熱電流と非発熱電流の比は、f=100㎑で約0.6、f=1㎒で約2.7、f=10㎒で約3.6になります。
| 組織 | 電気伝導率(S/m) |
|---|---|
| 血液 | 0.7 |
| 骨 | 0.02 |
| 脂肪 | 0.03 |
| 乾燥した皮膚 | 0.03 |
| 湿潤した皮膚 | 0.25 |
図3:1㎒における、各種生体組織の導電率。
図4.RFの周波数による組織の導電率。
図5.RF周波数に応じた、導電率と自由双極子の変化。
高周波の熱刺激でCaveolae-1を調整できる?
体の細胞は、単独で存在しているわけではありません。周囲の細胞や細胞外マトリックスと、常に信号をやり取りしています。さまざまなサイトカイン、タンパク質、成長因子が関わり、それぞれに対応する受容体が細胞膜にあります。細胞膜のカベオラという構造は、皮膚の老化、炎症、傷跡、メラニン形成など、多様な皮膚疾患や美容治療の対象になり得ます。
図6.細胞膜のカベオラに集まるシグナル分子。血管内皮細胞のカベオラに局在するシグナル伝達タンパク質の例。出典:Caveolae, caveolins, cavins, and endothelial cell function: new insights, Grzegorz Sowa, Front. Physiol., 06 January 2012 Sec. Vascular Physiology, Volume 2 - 2011 | https://doi.org/10.3389/fphys.2011.00120.
図7.カベオラとCav-1のドメインのモデル。CSD:カベオリン足場ドメイン、EHD2:Eps15相同ドメイン2、OD:オリゴマー化ドメイン、S80:セリン80のリン酸化、14:チロシンY14のリン酸化。Biorender.comで作成。出典:Caveolae: Metabolic Platforms at the Crossroads of Health and Disease, Dante Maria Stea, Int. J. Mol. Sci. 2025, 26(7), 2918. https://doi.org/10.3390/ijms26072918.
カベオラは、細胞膜が内側にくぼんでできる構造です。構成する要素にはカビンとカベオリンがあり、代表的なのがカベオリン1です。顔にしわが増えるように、加齢で細胞膜にもカベオラが増えます。ただし、加齢以外の要因でも、その数は増減します。内皮細胞のカベオラには、さまざまなシグナル分子が集まり、カベオリン1と相互作用します。eNOS、RTK(VEGF受容体2など)、GPCR(ブラジキニン受容体2、エンドセリン受容体、ムスカリン受容体など)、ヘテロ三量体Gタンパク質のサブユニット(Gqなど)、TGF-β受容体Ⅰ・Ⅱ、カルシウムチャネル(TRPC1、TRPC4、TRPV4など)が含まれます。
カベオリン1は、皮膚の老化に関わるHSPや、TGF-βの増加に伴うコラーゲン合成だけでなく、顔の脂肪の加齢変化にも関わっています。研究では、カベオリン1の発現が増えると、コラーゲンやTGF-βが減少することが示されています。また、アトピー性皮膚炎の患者では、健康な人より発現が少ないという報告があります。カベオラの少ない子どもにアトピー性皮膚炎が多く、増加する成人では少なくなる傾向とも重なります。代表的な炎症性皮膚疾患である乾癬にも、関連があると考えられます。カベオリン1が減ると、炎症に関わるMMPが増えます。そのため、アトピー性皮膚炎、乾癬、ニキビ、傷跡など、MMPが関わる疾患では、カベオリン1の調整が治療目標となり得ます。
重い感染、外傷、離開した手術創、褥瘡など、皮膚が広く損傷した状態では、創傷治癒力が低下し、カベオリン1が高いことがあります。加齢でもカベオラが増えるため、高齢者では傷の治りが悪いことが多く、早い段階から適切にケアすることが大切です。反対に、カベオリン1が低すぎると、治癒反応が過剰になり、ケロイド状の傷跡を生じる可能性があります。子どもは成人よりカベオラが少なく、治癒反応が強くなりやすいため、ケロイド状の瘢痕に進むことがあります。幼い時期に傷跡の残る手術を避けるのは、このためでもあります。つまり、カベオリン1が低すぎるアトピー性皮膚炎、乾癬、ニキビ、ケロイド状瘢痕では高める治療が、逆に高すぎる褥瘡などの慢性創傷では下げる治療が必要になります。
カベオラの調整は、メラニンの生成にも関係します。色素沈着が進む間、メラノサイトと表皮角化細胞の境界ではカベオラが増え、カベオリン1はメラノサイト内のcAMPの増加と相関します。この関係から、メラノサイトのカベオラは色素治療の対象となり得ます。加齢ではカベオラが増えるため、カベオリン1を減らす治療が適しています。発現の増加は、皮膚再生に重要なEGFの低下や、コラーゲン再生の減少と関連しています。カベオリン1が増えると、合成に直接関わるTGF-βが減り、コラーゲン合成も低下します。HSPの減少にも、カベオリン1の増加が関係しています。
カベオリン1は、超音波機器やEBDでHSPを誘導することで、ある程度調整できます。MMP、HSP、カベオリン1は深く関わり、PPARγも密接に関連しています。こうした経路を通じて、EBDは脂肪由来幹細胞の分化や増殖を促します。
(次号に続く)
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